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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)2654号 判決 1963年2月14日

判   決

原告

咲山欽一

原告

西田右門

右両名訴訟代理人弁護士

松本善明

矢田部理

上条貞夫

今井敬弥

小島成一

坂本修

浜口武人

安田郁子

渡辺正雄

右弁護士松本善明訴訟

復代理人弁護士

斉藤忠昭

被告

凸版印刷株式会社

右代表者代表取締役

山田三郎太

右訴訟代理人弁護士

山根篤

下飯坂常世

海老原元彦

右当事者間の昭和三五年(ワ)第二六五四号出勤停止処分無効確認請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告咲山に対し金一、三二五円を、同西田に対し金九九七円をそれぞれ支払え。

原告の本件確認の訴を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

原告ら訴訟代理人は、「原告咲山および同西田が、被告との間において、別紙記載の出勤停止処分の附着しない労働契約上の地位を有することを確認する。被告は原告咲山に対し金一、三二五円を、同西田に対し金九九七円をそれぞれ支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。

第二  請求の原因

一被告会社は印刷業等を目的とする株式会社であり、原告らはいずれも、被告会社に雇用され、同社板橋工場の作業部活版印刷課に勤務しているものであつて、同工場の従業員をもつて組織された凸版印刷板橋工場労働組合(以下単に組合という)の組合員である。

二被告会社は、別紙記載のように、昭和三四年七月八日原告らに対し、それぞれ二日間の本件出勤停止処分をした。その処分の理由は、原告らが、被告会社の事前の警告を無視して、昭和三四年六月二九日被告会社が従業員に配布した「経協速報」を就業時間中当該課長の許可なく回収した行為は、被告会社の従業員に対する懲戒事由を定めた就業規則第五八条第一二号に該当するというのである。

三しかしながら、本件出勤停止処分は、いずれも次のような事情のもとになされたものであるから、不当労働行為である。

1  組合は、昭和三四年六月一〇日、被告会社に対し夏期手当として本俸一箇月分の二五割を要求する旨決定するとともに、事前にスト権を確立し、同月一五日右夏期手当の件につき被告会社と交渉を開始した。被告会社は、あらかじめ板橋工場の争議に備え、同工場の仕事の大部分を下請けに出し、職場を事実上休業状態としていたが、六月二二日に至り突如として、経営協議会における議事の内容を掲載した「経協速報」を組合員に配布した。そこで組合は、同月二三日執行委員会において、(一)、右「経協速報」の記事内容は一方的で不公平であり、組合の重大な発言を掲載せず、(二)、また、同速報で会社が組合に対抗するような報道をすることは正常な労使間のルールにも反し、(三)、なお経営協議会の議事の内容、団体交渉の経過等の報告は従来組合機関にまかされており、会社もこれを認めていたのであるから、「経協速報」の配布は従来の慣行を被るものであるという三つの理由で、被告会社に、「経協速報」配布の中止方を要請するとともに、もしこれを中止しない場合には、職場委員を通じて回収し、一かつ返上する旨決定し、翌二四日被告会社にその旨申入れた。しかしながら、被告会社は、組合の右申入れにもかかわらず、六月二九日更に組合員に「経協速報」を配布した。

2  そこで、当時板橋工場の作業部活版印刷課において、いずれも組合の職場委員として積極的に組合活動に従事していた原告両名は、組合の前記機関決定に基づき、六月二九日、職場委員として、同日附の「経協速報」を回収したのである。なお、右回収当時は、前記のように、被告会社の板橋工場は休業状態にあつたから、回収行為によつて職場の秩序等が乱されるようなことは全くなかつた。

四以上のとおり、原告らの「経協速報」の回収行為は、スト権を確立した組合の決定に従つてなされたものであるから、正当な争議行為である。したがつて、本件出勤停止処分は、原告らが正当な争議行為をしたことを理由とする不利益取扱いであるから、労働組合法第七条第一号の不当労働行為として無効である。

五懲戒処分としてなされた本件出勤停止処分は、将来原告らの昇給、昇任又は賞与、退職金の支給に影響があることはもちろん、原告らが他社に転ずる場合等の履歴にも影響するところがあるので、原告らが被告会社との間に本件出勤停止処分の附着しない労働契約上の地位を有することの確認を求め、また、原告咲山は本件出勤停止処分により、金一、三二五円の賃金カットを、同西田は同じく金九九七円の賃金カットを受けたから、カットされた右各賃金の支払を求めるため、本訴請求に及ぶ。

第三  被告の答弁ならびに主張

一  答弁

1  請求の原因一および二の事実は認める。

2  同三の1の事実のうち、原告ら主張のとおり、「経協速報」を組合員に配布したこと、および組合が被告会社に対し原告ら主張のとおりの理由で「経協速報」配布の中止方を要請するとともに、配布を中止しない場合にはこれを回収して一かつ返上する旨申入れたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同三の2及び同四の事実は否認する。

4  同五の事実中、被告会社が原告らに対しその主張の額の賃金カットを行なつたことは認めるが、その余は争う。

二  主 張

1  被告会社板橋工場の従業員は、昭和三四年三月、凸版印刷労働組合(連合体)を構成する凸版印刷板橋支部労働組合(単位組合)を脱退して、凸版印刷板橋工場労働組合(以下、単に組合という)を組織したが、組合は、定時退社等たび重なる違法な組合活動を展開し、昭和三四年度夏期手当の要求に当つても、被告会社の他の事業場における要求を上廻る本俸一箇月分の二五割を求めて来た。そこで、被告会社は、印刷業が受注産業である関係上、組合の戦闘的姿勢が得意先の信用を失わせることがあつては、事業の円滑な運営を行なうことができなくなることを考慮し、労使関係の安定化を期待して、昭和三四年六月二〇日組合に対し、組合が、時間外及び休日労働の協定を無視して、集団的に定時退社および休日出勤拒否を行なわないこと、時間外および休日労働の協定を三箇月毎に締結すること、交替勤務に協力することなどを条件に、夏期手当二一割を支給する旨回答し、組合と経営協議会において交渉を行なつた。しかして被告会社は、右のように憂慮すべき労使関係のもとにおいて、従業員に会社の考え方を周知徹底させるため、経営議議会において討論された事項の要旨を掲載して「経協速報」を従業員に配布する方針を決定し、六月二〇日の経営協議会における社長の談話の要旨を掲載した「経協速報」を同月二二日従業員に配布した。これに対し、組合は、同月二四日原告ら主張のとおりの申入れをしたのであるが、被告会社は、同月二七日板橋工場長名で、被告会社が「経協速報」を従業員に配布するのは、現在会社および従業員のおかれている重大な立場を従業員に周知徹底させるためであつて、会社の重要な業務の一つであるから、組合としてもこれを阻止することはできないものであること、したがつて、もし組合がこれを回収して、一かつ返上するときは、会社は規律に照らして厳重に処分する用意がある旨警告し、六月二四日附、同月二九日附、七月三日附および同月四日附の各経協速報を従業員に配布した。

2  原告両名は、被告会社の右警告を無視し、六月二九日板橋工場活版印刷課内において、同課課長の許可なく、原告咲山は就業時間中たる午前八時三〇分頃、同西田は同じく午前八時二五分頃それぞれ同日付の経協速報を従業員から回収した。

3  原告らの右行為は、職務上の指示命令に不当に反抗して、職場の秩序を乱そうとした行為に準ずるものであるから、被告会社は、就業規則第五八条第一二号、第四号に照らし原告らに対する徴戒として、本件出勤停止処分をしたのである。

4  仮に原告ら主張のように本件回収行為が争議行為であるとしても、右行為は、労働協約に違反する違法な争議行為である。すなわち、昭和三三年一二月二七日被告会社と凸版印刷労働組合および同組合を構成する凸版印刷板橋支部労働組合その他の単位組合との間に締結された労働協約の第一七条には、「会社と組合(又は支部組合は)経協(経営協議会または事業場別経営協議会)において双方誠意を以て協議しても決定を得られないときは、団体交渉に移る」と規定され、同第二三条には、「会社と組合またに支部組合は団体交渉により慎重協議を重ねても尚解決しないときの外は、一切の争議行為を行わない」と定められている。凸版印刷板橋支部労働組合と組合(凸版印刷板橋工場労働組合)とは、いずれも同じ被告会社板橋工場の従業員で組織されているから、両者間に本質的な差異はなく、労働組合としての同一性を有する。従つて右労働協約は組合に対しても効力を有する。ところで、原告らの回収行為は、団体交渉はおろか経営協議会において協議がなされる以前に、スト権を確立したと称して、なされたものであるから、右労働協約に違反する違法な争議行為である。

5  以上のとおりであるから、被告会社が原告らに対してした本件出勤停止処分には何ら違法な点はないから、右処分が不当労働行為である旨の原告らの主張は理由がない。

第四  被告の主張に対する原告らの陳述

組合は、被告会社板橋工場の従業員が凸版印刷板橋支部労働組合を脱退して、別個に結成した組合であるから、両者に労働組合としての同一性はなく、従つて被告主張の労働協約が組合に対して効力を有することはない。

仮に両者が労働組合としての同一性を有するとしても、右労働協約は、既に失効しているものである。すなわち、凸版印刷労働組合(連合団体)および同組合を構成する凸版印刷板橋支部労働組合その他の支部労働組合(単位組合)と被告会社との間に締結された右労働協約第四〇条には、「組合(凸版印刷労働組合)に変更があつた場合はそのときから本協約は効力を失う」と規定されているところ、昭和三四年三月頃凸版印刷労働組合から凸版印刷板橋支部労働組合が脱退し、組合の構成に変更があつたのであるから、同協約はその頃失効したのである。

したがつて、原告らの回収行為が労働協約に違反する旨の主張は理由がない。

第五  証 拠(省略)

理由

一被告会社が印刷業等を目的とする株式会社であり、原告らがいずれも被告会社に雇用され、同社板橋工場の活版印刷課に勤務していること、被告会社が昭和四三年七月八日原告らに対し、原告ら主張のように二日間の本件出勤停止処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二原告らは、本件出勤停止処分はいずれも不当労働行為として無効であると、主張するので、検討することとする。

1  (証拠―省略)を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、被告会社には本社、板橋、小石川、大阪、仙台の五事業場毎に、各事業場の従業員をもつて組織する凸版印刷本社支部労働組合、凸版印刷板橋支部労働組合その他の支部労働組合(単位組合)があり、右五支部労働組合をもつて構成する凸版印刷労働組合(連合体)があつたが、凸版印刷板橋支部労働組合の組合員であつた被告会社板橋工業の従業員は、凸版印刷労働組合(連合体)が昭和三四年一月に行つた賃上げ要求に関し、初任給における男女の賃金の格差および仙台事業場との賃金の地域差等の問題につき、同組合がとつた態度に、不満を抱き、同年三月頃凸版印刷板橋支部労働組合から脱退し、それと同時に、凸版印刷板橋工場労働組合(以下、単に組合という)を結成した。組合は、昭和三四年六月一〇日頃、被告会社に対し夏期手当として本俸一箇月分の二五割を要求する旨決定するとともに、事前にスト権を確立した上、同月一五日右夏期手当の支給を要求した。被告会社としては、印刷業は、その本質上受注産業であつて、得意先の発注仕事の迅速な消化に対する信用を失うときは、その企業の存立はあり得ないのに、被告会社の主力工場で、定期刊行物等に納期を絶体に厳守すべき週刊紙等の印刷製本を引受けていた板橋工場の従業員が凸版印刷労働組合下の単位組合である凸版印刷板橋支部労働組合を脱退して、別個に組合(凸版印刷板橋工場労働組合)を結成し、その組合が夏季手当の要求にあたり、当時凸版印刷労働組合から被告会社に提出されていた夏季手当の要求額(本俸一箇月分の二一・五割)を上廻る要求額を提出し、しかもその要求前既にスト権まで確立し、また従来も時間外および休日作業に協力して来なかつたことなどが、得意先(出版社等)の不安感を招き、得意先の中に既に発注した仕事を引上げるものも出て来たのは、そのためであるとし、この際労使関係の安定化に務め、仕事の消化態勢を整えて、得意先の不安感を一掃し、その信用を維持することこそ、企業の存立と従業員の生活の長期安定を図る基であると考え、かかる観点に立つて、同月二〇日組合に対し、組合が時間外および休日労働の協定を無視して、集団的に定時退社および休日出勤拒否を行なわないこと、時間外および休日労働の協定を三箇月毎に締結すること、交替勤務に協力することなどを条件に、夏季手当として本俸一箇月分の二一割を支給する旨回答し、組合と経営協議会(会社と組合とが、労働条件、労働協約の制定、改訂等を協議するために設けた協議会)を通じて交渉を開始した。そして、なお、被告会社は、業務の円滑な運営を図るには、常に各組合の要求に対する会社の考えを従業員に周知徹底させる必要があり、そのために、会社と各組合との間で開催される経営協議会の議事の内容等を掲載した「経協速報」を発行し、各事業場の従業員に配布するとの方針を立てた。そこで、被告会社は、同月二二日附の「経協速報」に、同月二〇日の経営協議会において、社長が行なつた印刷企業の本質とその在り方についての談話および会社が回答した夏季手当支給の額と条件について会社と組合との間で行なわれた質疑応答の要旨を掲載し、これを板橋工場の全従業員に配布した。しかしながら、被告会社に労働組合が結成されて以来それまで十数年間、経営協議会の議事の内容および団体交渉の結果等の報告は、組合員に対しては組合側がし、部課長等の職制に対しては会社側がするという慣行があつたが、右「経協速報」の配布は、被告会社が何ら組合の了解も得ないままに一方的に行なつたもので、右慣行を破るものであつた。そこで、組合は、「経協速報」の配布自体が慣行違反であるばかりでなく、その記事も会社側に有利な点が多く組合側の重大な発言を掲載していないと判断したので、組合の議決機関である職場委員会において、これを回収して、一かつ返上する旨決議し、昭和三四年六月二四日執行委員長山田勉から板橋工場長竹村恒緒あてに申入れ書を提出して、「経協速報」配布の中止方を要求するとともに、もし中止しない場合には職場委員を通じてこれを回収し、一かつ返上する旨通告した(右通告の点については当事者間に争いがない)被告会社は、組合の右通告に対し、同月二七日、経協速報の配布は、会社の重要な業務の一つとして行なうものであるから、組合もこれを阻止することができないものであり、もし組合が配布された経協速報を回収して一かつ返上すれば、会社としては規律に照らして厳重に処分する用意がある旨回答するとともに、右回答を掲示板に掲示し、かつ板橋工場の全従業員に対してその写を配布した。そして、被告会社は、同月二六日の経営協議会において夏季手当に関し、会社が掲示した手当支給の条件や組合が行つたスト権の事前確立をめぐつて、会社と組合との間でなされた討議の内容の要旨を掲載した同月二九日附の「経協速報」を板橋工場の組合員を含む全従業員に配布した。組合の職場委員であつた原告らは、会社の右回答にもかかわらず、組合の前記決定に従い、同月二九日午前八時三〇分頃板橋工場の活版印刷課内において、同課所属の組合員から、同人らに配布された同日付の「経協速報」を回収した。原告らその他の職場委員が板橋工場で組合員から回収して、組合事務所に集めた右「経協速報」は合計五〇〇枚以上に及んだ。

以上のような事実が認められ、(中略)他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、原告らが右「経協速報」を回収したのは、被告会社の就業時間中であり、また原告らが非組合員からもこれを回収したものと認められる証拠はない。

2  以上認定の事実によると、被告会社が組合員を含む従業員に対し同月二九日附の「経協速報」を配布した行為は、(たとい、その配付自体が労使間の慣行に違反するところがあり、また仮にその記事が、経営協議会における組合の重大な発言を脱漏するなど、一方的であつたとしても)業務の円滑な運営によつて企業の存立を図るため、組合の夏季手当の要求およびこれに関する動向に対する会社の観点に立つ考え方を従業員に周知徹底させることを目的としてしたものであるから、被告会社の業務の正常な運営であるということができ、原告らが組合員から右「経協速報」を回収した行為は、組合の決定に従い、組合の夏季手当に関する主張を貫徹することを目的としてしたものであつて、会社の業務の運営と認められる右「経協速報」の配布を阻害した行為であるから、争議行為であるといわなければならない。

被告会社は、原告らの回収行為は労働協約に違反する違法な争議行為であると主張するが、被告会社が主張する労働協約は、昭和三二年一二月二七日被告会社と凸版印刷労働組合(連合体)およびこれを構成する凸版印刷板橋支部労働組合その他の単位組合との間に締結されたものであることは、当事者間に争がないところ、既に認定したように、組合(凸版印刷板橋工場労働組合)は、凸版印刷板橋支部労働組合の組合員であつた板橋工場の従業員が同組合を脱退して、別個に組織した組合であるから両組合間に組合としての同一性はない。両組合の組合員が同じ板橋工場の従業員であるということだけでは、両組合の同一性を認めることができない。従つて、右労働協約は組合は対して効力を有しないことは明らかであるから、その効力あることを前提として、原告らの回収行為を違法な争議行為であるとする被告会社の主張は、その他について触れるまでもなく、理由がない。

3  以上のとおり、原告らの前記「経協速報」の回収行為が争議行為である以上、被告会社がこれを、「職務上の指示命令に不当に反抗し職場秩序を乱そうとした行為に準ずるもの」として、就業規則第五八条第一二号、第四号違反を理由に、その責を問うことは許されないのであり、従つて、本件出勤停止処分は、原告らの正当な組合活動の故にした不利益な取扱であるというほかなく、労働組合法第七条第一項の不当労働行為として、無効であるといわなければならない。

三原告らは、本訴において、原告らが被告会社との間に本件出勤停止処分の附着しない労働契約上の地位を有することの確認を求めるのであるが、弁論の全趣旨からみて、原告らが被告会社との間に労働契約上の地位を有することについて当事者間に争がない以上、それは、本件出勤停止処分の不存在の確認を求めることに帰着する。確認の訴は現在の法律関係の存否を対象とするものに限り許されるところ、出勤停止処分自体は、法律関係発生、消滅等の前提となる法律事実に過ぎないのであつて、法律関係そのものではないから、本件出勤停止処分の不存在を確認の訴の対象とすることは許されない。なお、本件訴の趣旨を、本件出勤停止処分に基づく法律関係の存否の確認を訴求するものと解しても、単に抽象的に将来原告らの昇任又は賞与の支給等に影響があるというように、本件出勤停止処分に基づいて、ある法律関係が発生消滅する可能性があるだけで、その発生消滅が確実でない法律関係についてまで、確認の訴を許すべきいわれがなく、現実に発生消滅するのを持つて、その時における現在の法律関係として、その存否につき、確認の訴を提起し得るものとすれば足りるのである。要するに、原告らの本件確認の訴は、その対象となし得ないものを対象とした点において、不適法として却下するほかない。

次に、本件出勤停止処分に基づき、原告咲山が金一、三二五円の賃金を、同西田が金九九七円の賃金を控除されたことは当事者間に争いがない。本件出勤停止処分が無効である以上、これに基く賃金の控除は許されないから、被告会社は原告らに対し、控除した右賃金を支払うべき義務がある。したがつて、この点に関する原告らの請求は理由があるから、正当として認容すべきである。

四よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一九部

裁判長裁判官 吉 田   豊

裁判官 吉 田 良 正

裁判官北川弘治は、転任につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 吉 田   豊

別紙<省略>

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